心の病気の治療・特徴
心の病気の治療プロセスは、まず、(1)心身の症状の緩和、(2)病変、障害の回復の促進と治癒、(3)新しい適応の援助、(4)再発予防のための心身の強化、ライフスタイルの改善、成長促進という手順をとります。
そのため、病態レベルや性格傾向の把握、取り巻く状況の評価などを考慮して治療法を組み立てます。
心の病気の特徴
中年期は人生中間の移行期、転換期です。生き方が問われ、その見直しを迫られます。
いろいろなハードルを飛び越すことができるか。
その失敗、挫折、逸脱を契機に発症してくることが多いのです。
したがって、各種のライフイベントの前後が要注意です。
高年期は身体機能の低下を自覚しながら、役割の喪失や死別など、損失体験に適応しないといけません。
現象的には心の病気であっても、心身両面からの対応が必要です。
とくに中年期の場合、挫折と認めるのを拒否し、単に表面的な症状の改善だけを求めて、姑息な対応に終わることが多くあります。
社会的自己を失うのではないかという不安からです。
この否認から現実の直視への転換にあたっては、家族や周囲の人の共感的受容も必要です。
心とからだの病気が併存する可能性
うつ病のなかには、精神症状が軽微で、社会生活や家庭生活にほとんど支障がなく、ただ慢性的な身体症状(頭痛、肩こり、疲労感、食欲不振、性欲減退など)だけがあるものがあります。
これを身体症状が精神症状をマスクした仮面うつ病といいます。
身体疾患、または心身症とされていても、このその背景に身体病を合併していることもあります。
うつ病や心気症とされているなかに、膵臓がんなどの悪性疾患が隠れていたり、心とからだの病気が併存している可能性が高いのが中高年期の特徴です。
さらに、心の病気間の移行もあります。
過剰適応型の心身症の人 ひへいが疲弊して、うつ病になる。
パニック発作をくり返していた不安神経症の人がうつ病になる。
うつ病が治ったと思っても神経症症状が続く。
心身症の人が高年期に入って心気症などの神経症になる。
こんな例もよくみられます。
このなかで、病因ないし誘因として心理・社会的要因というのがとはなにかを、壮年期、熟年期、老年期に分けて解説しましょう。
壮年期
この時期は、人生のもっとも充実した期間です。
自律性、社会適応性、自我同一性、性的同一性、主体性を確立し、対日、対他関係ともに親密性を感じることができます。
一方、親として、子どもとして、社会人としてもっとも大きな変化が続けて現れる時期でもあります。
子どもの教育や進路をめぐる葛藤、子どもの非行、家庭内暴力などに苦しむこともあります。
過干渉となり、かえって親子関係の悪化を招くこともあります。
逆に、子どもがいないための不安、不妊による婚家との不和などが表面化することもあります。
配偶者との不和、不倫、離婚騒動も大きなストレスになります。
離婚後の女性のストレス病(離婚後症候群)も多いものです。
また、単身赴任や共働きにより、夫婦すれ違い、交流密度の低下による相互不信も起こりやすくなります。
成人病や両親の病気
この時期は、長い間のかたよった生活習慣のため、成人病が発症したり、両親の病気、死別など、老病死を意識せざるを得ないことも起こります。
老親の介護疲れも注目されます。
孤独感や、将来の不安
適当な配偶者が見つからず、独身生活を続けている場合、孤独感や将来への不安感が強まることもあります。
職場では、社会の中堅、会社での中間管理職として、上司、同僚、部下との間にはさまれ、身動きできないサンドイッチ症候群に苦しむ人もいます。
テクノ不安症、逆に、テクノ依存症も増えてきました。
さらに、一応の社会的適応を果たしながら、現在の生活に疑問を感じ、まだやり直せる、いや、もう遅い、あきらめるしかないかと悩み始めることもあります。
現実と本来の自己の適性、希望とのギャップに気づくので、再生の苦しみが、心身症状(実存神経症)となって出てくることもあります。
意にそわぬ配転、突然の失業、転職による失意がある反面、意外に昇進後のうつ病(昇進うつ病)や神経症がみられます。
ほどよい自己愛が満たされないための、うらみ、つらみ、羨望、後悔、自責感がヒステリー的身体症状となったり、うつ的反応を引き起こすのです。
また、その否認から、問題行動を呈することもあります。
熟年期
一応の安定のなかに別れのストレスが熟年期この時期は、人格の成熟とともに、内面的葛藤に一応の解決を兄い出し、安定した態度で他の世話をする時期です。
この時期のストレスのおもなものは、別れです。
進学や結婚によって、子どもたちが自立していきます。
最愛の息子の結婚式が近づくにつれ、めまいや不眠、不安などの症状を訴える母親がいたり、娘の結婚後にうつ状態になる父親もいます。親としての役割を喪失した空の巣症候群とも呼ばれます。
それまで表面的には平静を装っていた夫婦関係が悪化することもあり、神経症症状を呈したり、定年を機に離婚(定年離婚)となることもあります。
先輩、友人の死
この時期には、それまで小康状態を保っていた成人病、持病が悪化し、心気的傾向や疾病恐怖が現れ始めることがあります。
先輩、友人の死に出会うようになり、人ごとと思えず、わが身に引き写して考え込んだりします。
定年うつ病や上昇依存停止症候群
社会生活では、大きなできごととして定年退職があります。
長い間続けてきた生活に変化が生じ、再適応への不安が生じます(定年うつ病)。
また、予期せぬ出向なども、会社内での地位、役割の限界を知らされ悲哀を味わうことがあります(上昇停止症候群)。
老齢期
この時期にあってもまだ、人間成長のための発達課題があります。
それは、これまでバラバラに機能し葛藤を生じてきた人格機能を統合し、対自、対他問題に解答を出し、和解することです。
自分を許し、他人を許し、なにものにもとらわれない、こだわらない英知を備え、死を受け容れる準備をするわけです。
この時期のストレスは、子どもの独立と役割の喪失、配偶者の病気、死亡、近親者や友人の死亡です。
配偶者との死別がもっともストレス度が高く、その後の病気発症率、死亡率が高くなります。
社会的、家庭的役割を喪失し、地域活動などへの参加もなくなると、生きがいの喪失感が強くなります。
うつ的になり、からだへのとらわれから心気的になっていきます。
自己のからだだけが愛情対象になっていくのです。
長期入院、療養、転居などの環境的変化も強いストレスとなり、精神機能を低下させることがあります。
死を意識することが人をして、より人間たらしめます。
中高年期は、体力の衰えや自己の限界性、さらには自己の死を意識し始める時期です。
青年期に獲得した生き方やアイデンティティでは、もはや支えきれないことに気づくわけです。
過去においてやり残した課題や、影になっていた自分、欠落した生き方に光を当て、すべてを統合していくのです。
健康の基本は、運動、栄養、休養といいます。
たしかに、体力、気力の維持、増進はたいせつですし、いつまでも前向きに明るく生きようと思うのはよいことです。
一方、人生の否定的な面も否認せずに直視し、気づきを深めていくこともだいじです。
過去の統合的受容と未来への展望が、生きる意味の世界を豊かにしていくのです。
中高年期の心の健康の源泉はここにあります。
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