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老人性痴呆
健忘とボケ
「最近、もの忘れがひどい。ボケが始まったのかも……」と悩む人が少なくないようですが、たいていは健忘です。
歳をとるともの忘れが多くなり、もの覚えもわるくなるのが普通です。
しかし、どういうもの忘れがボケの初期で、どういうもの忘れが健忘かを区別するのは、一般には困難です。
ボケの記憶障害は、進行すれば、健忘と比べものにならないほど病的に感じられます。
朝になにを食べたのか忘れるのが健忘ならば、いま食べたことも忘れて食べ直すのがボケ。
きのうはじめて会った人の名まえをきょう忘れているのが健忘ならば、いま聞いたばかりの名まえを忘れて何度も聞くのがボケ、といった具合です。
ボケの本人は「いま、食べたばかり」、「いま、言ったばかり」と指摘されても、「食べていない」「聞いていない」と主張することが多いのです。
たいせつなのは、進行したボケではなく、初期のボケに早く気づき、早く専門医の診療を受けることです。
もの忘れがひどくなったときは、一度ボケの検査を受けることをおすすめします。
脳血管性痴呆とアルツハイマー型
私たちはボケという言葉を「痴呆」とだいたい同じ意味で使っています。しかし、厳密にはかなり異なります。
痴呆とは、「いったん正常に発達した知能が、病気のために低下してしまった状態」をいいます。
したがって、痴呆は老人にだけみられる現象ではなく、三十代、四十代でもなんらかの病気で知能障害が起これば、やはり痴呆です。
一方、ボケという言葉は、老人の痴呆に限って使われています。
つまりボケとは、老年期に起こる痴呆のうち、脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆(アルツハイマー病を含む)を指していることが多いようです。
ただ、一般的には「ボケる」「ボケてしまった」というように、痴呆のような(痴呆とは限らない)症状を表す場合にも用いられています。
痴呆の原因には、脳血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆のほかにもいろいろあります。
おもなものをあげるとピック病、パンチントン病、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、甲状腺機能低下症、肝性脳症、脳腫瘍、水頭症、ベーチェット病、慢性硬膜下血腫、うつ病などです。
これらの病気の多くは、痴呆以外の症状を伴いますので、ボケとは区別できます。
たとえば、パーキンソン病は手足のふるえ、筋肉のこわばり、動作緩慢を主症状として、前屈姿勢、歩行障害、無表情などの副症状があり、ボケの症状も伴うことがあります。
しかし、正常庄水頭症、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫などのように、ほかには目立った症状がなく、ボケの症状のみが前面に出てくるものもあります。
これらは診断さえつけば、治しやすい病気です。
また、うつ病でもボケのような症状がみられます。
老年期のうつ病は抑うつ気分が目立たず、もの忘れがひどくなったり、精神活動が低下することが多く、痴呆に似ています。
これは「うつ病性仮性痴呆」と呼ばれています。
しかし、気をつけて観察すると、痴呆との違いがわかります。
家族からみて、仮性痴呆の場合は、症状が出現した時期がほぼ正確にわかり、痴呆の場合は、発症時期がはっきりしないものです。
うつ病性仮性痴呆では、本人が知的能力の低下を強く訴え、失敗したことを強調しますが、実際にはそれほど目立ちません。
痴呆では知的能力の低下、失敗を本人は気にしませんが、周囲の人には目立つことが多いのです。
このようにいろいろある痴呆のうち、ここでは老年期の痴呆の八十〜九十%を占める脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆を取り上げます。
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脳血管性痴呆
脳血管の障害により、脳の働きが低下して起こる痴呆を、脳血管性痴呆と呼んでいます。その八十%までは脳卒中後に発生しています。
つまり脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などを発症し、それによって脳細胞の一部が死滅し、知的障害(痴呆)が起こるものです。
原因でもっとも多いのは脳梗塞です。
ただし、脳卒中を起こしたことがなくて発症する脳血管性痴呆もあります。
その原因として注目されているのが、無症候性脳梗塞です。
とくに小さな梗塞巣が、脳のあちこちにいくつも発生する多発性脳梗塞は、痴呆を起こす可能性が高いとされています。
知的機能の障害は「朝方はよいが、夕方はひどい」というような日内変動がみられる(まだら痴呆)のが特徴です。
外界に対する注意力は比較的保たれ、病気だという意識も持っています。じょじょに発症して、比較的ゆっくり進行するのが特徴です。
しばしば運動、知覚、言語障害などの神経症状を伴います。進行が早く、階段状に悪化していきます。
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アルツハイマー型痴呆の検査
画像検査や知能検査を行う
臨床検査は、脳卒中の既応や病歴、現在の症状などについて調べます。
知能検査は、知能テストなどで記憶、記銘、見当誠、計算などの力を調べます。
知能テストにはいろいろありますが、初期痴呆のスクリーニングには「長谷川式簡易知能評価スケール」がよく用いられています。
画像診断法であるCTやMRIは、脳の形態を描出し、進行した痴呆でみられる脳の萎縮は描出しますが、脳の機能的な病気である痴呆の診断には適していません。
痴呆を早期に発見するにはSPECTで躯の血流を調べる)、PET(ポジトロンCTで脳の代謝を調べる)が有用です。
とくにPETは痴呆をきたす脳細胞の病的変化をとらえることができます。
今日、知能テストや画像診断の進歩により、記憶力だけが低下している初期のアルツハイマー型痴呆も診断できるようになりました。
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老人性痴呆の治療
確実な治療法はない、初期段階の痴呆であれば、進行停止も
脳血管性痴呆にしても、アルツハイマー型痴呆にしても、現在のところ、確実な治療法はありません。
しかし、臨床的にさまざまな治療法が試みられており、症状が軽減する例もたくさん報告されています。
とくに治療成績がいいのは早期の痴呆で、薬物療法により進行を止めることも期待できます。
一次予防と二次予防とがあります。
脳血管性痴呆
一次予防は脳卒中の予防と同じです。
動脈硬化を予防し、高血圧症、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満などをコントロールすることです。
さらには塩分、脂肪の摂りすぎ、食べすぎ、運動不足、過剰なストレスなどを避ける、つまり成人病を予防するための生活改善が必要です。
二次予防は、痴呆の早期発見です。
とくに脳卒中を起こしたことのある人は、定期的に脳ドックなどでチェックすることがたいせつです。
脳ドックでは、脳血管性痴呆のリスクが高いといわれる無症候性脳梗塞などを発見するMRI検査、早期痴呆を発見する知能テストなどが行われます。
アルツハイマー型痴呆
まだ原因が明らかになっていないため、一次予防は確立されていません。
しかし、発症した患者の過去のデータから、危険因子を探す研究が進められています。
ライフスタイルにおける危険因子としては、頭部外傷、趣味の欠如、運動不足、歯の喪失などがあげられています。
また、病前性格(発症前の性格)としては、内閉型(愛想がない、閉鎖的、無口など)、感情型(気性が激しい、わがまま、短気など)の人に多いとされています。
一方、同調型(社交的、積極的、明るいなど)や執着型(正義感がど)の人などには少ないとされています。
つまり、趣味を持ち、適度な運動を行い、社交的に明るく過ごすことが、痴呆の一次予防になると考えられています。
まだ研究途中なので、予防効果が確実にあるとはいいきれませんが、いずれも健康維持に有用なことなので、実行して損はないでしょう。
また、脳を活性化することが、痴呆の予防になるとの研究もあります。
痴呆患者に対して、積極的なライフスタイルを指導し、右脳刺激訓練を実施し、一定の効果を得ている病院もあります。その内客はむしろ予防に向いています。
二次予防は早期発見ですが、脳血管性痴呆と同様、定期的に知能テストなどの検査を受けることがたいせつです。
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アルツハイマー型痴呆
脳内の神経細胞が死滅し消失する
脳のなかの一定の神経細胞が死滅し、消失することによって起こる痴呆をアルツハイマー病、あるいはアルツハイマー型痴呆と呼んでいます。
世界中で解明に向けて努力が続けられていますが、まだ原因も発病のしくみもわかっていません。
アルツハイマーの症状
徐々に発症して、比較的ゆっくり進行するのが特徴です。
知的機能は記銘力、記憶力の低下に始まり、全体に低下していきます。
進行に伴ってつぎのような症状が出現します。
認知機能の障害
(1)失語 言語機能に障害が起こり、人の名まえやものの名まえをいうのが困難になる。
(2)失行 運動機能の障害はないのに、慣れた動作、たとえば「さよなら」といって手を振る動作、料理、着衣などがうまくできない。
(3)失認 感覚系の異常がないのに、椅子とか鉛筆といったものを認知できない。
(4)高次脳機能障害 ものごとの遂行ができない。
つまり、少し複雑な行動を始めたり、やめたりすることができない、抽象的な思考ができない。
認知機能障害に伴う精神症状
(1)見当識障害 時間、場所、人に関する見当識に障害が起き、「きょぅは何日?」「ここはどこ?」「この人はだれ?」がわからなくなる。
(2)徘徊・多動 排御して外出したまま行方不明になったり、警察に保護されることがよくある。
けがをしたり、事故に遭ったりすることも少なくない。
また、財布を問けたり閉めたり、衣類をまとめたり取り出したり、着衣を着たり脱いだり、要求や質問をしつこくくり返したり……と無目的な行動をする。
妄想
現実にあり得ないことを確信して、周囲が訂正してやっても効果がない。
たとえば、「人がものを盗んでいる」「ここは自分の家ではない」「夫(妻)は別人である」といった妄想を抱き、周囲がいくら「まちがっている」といっても聞き入れない。
幻覚
実際には存在しないものを、実在するように感じる。
幻視、幻聴、幻嘆、幻触などもみられる。
リズム障害
時間の流れがわからなくなり、昼夜が逆転したり、睡眠障害で夜眠れなくなったりする。
夜間に騒ぎだす夜間せん妄を起こすことがある。
せん妄
注意力が散漫になり、維持する能力が低下し、その場に合った行動ができなくなる。
新しいことに注意が向けられないため、前のことに固執し、何度も同じ質問を繰り返したりする。
アルツハイマーの前兆
判断は難しいので気になったら専門家に検査をしてもらおう
アルツハイマーや、痴呆を発症する前に、その前兆ともいうべき診断臨床検査、知能検査、画像診断などが行われ症状がみられることがあります。
障害が軽度の段階では、疲れやすい、体調が思わしくないなどと訴えることが多く、もう少し進行した段階では、気分が沈みがちになり、不きげんになることが多くなります。
つぎの段階になると、性格が変化し、本来の性格傾向が誇張されたり、たとえば、もともと短気なのがさらに短気なったり、怒りっぽくなったりします。
しかし、実際には、これらの症状が、痴呆の前兆かどうかを判断するのは困難です。
気になる症状が現れたときは、専門医のもとで検査を受けましょう。
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